税務調査の調査官をしていたときに常に意識していたことがあります。
それは申告書や決算書を作成するもととなった証拠書類をどれだけ確認することができるか、ということです。
この証拠書類が確認できないとなると、申告書に出ている数字に不審感を持つわけです。
また、年金事務所調査や労働基準監督署調査でも、役所に届出書を提出していたとしても実際に運用できているかどうかは証拠書類を確認する必要があります。
なので、証拠書類の保管がいかに大事かということを今日は書いてみたいと思います。
「証拠書類」とは
ここで書く証拠書類とは主なものを挙げると以下のようなものです。
- 請求書
- 領収書
- 契約書
- 源泉徴収簿
- 賃金台帳
- 労働条件通知書(雇用契約書)
- 労働者名簿
- 出勤簿(タイムカード)
- 就業規則
- 年次有給休暇管理簿
があります。
つまり、これらの資料をもとにして決算書や申告書・届出書が作成されるのです。
証拠書類→決算書→申告書の順で作成
証拠書類→届出書、届出書をもとに役所から来た通知書が作成
証拠書類と申告書・届出書を突き合わせる
調査では、申告書や届出書が正しく作成されているかを確認することになります。
申告書や届出書に書かれている数字はどこから来たのかを、証拠書類と突き合わせていくわけです。
本来は証拠書類の数字と申告書や届出書の数字は一致していないといけないはずです。
しかし、そのどちらかが違っているとかそもそも数字や書類がないとなると、調査官は不審に思うのです。
証拠書類があったから申告書や届出書ができるわけで、不正行為(脱税など)が行われるときは役所に届け出る申告書や届出書を改ざんしたりするのです。
もととなる証拠書類は紛れもない事実ですから、それを隠す・廃棄するという手段に出ようとします。
それは最悪な事態です。
調査官はあらゆる方法でそれら破棄した書類の内容をつかもうとします。
例えば、取引先からもらった経費の領収書を破棄していたとします。
申告書の数字にはその経費の金額が書かれているわけですが、領収書が手元にありません。
調査官はそのことを確認するために、取引先の住所や電話番号を確認の上実際に取引先に訪問したりします(それを反面調査といいます)。
急に来られた取引先としたらちょっと困りますよね。
ひょっとしたら取引先との関係が悪化することにもなりかねません。
それだけ証拠書類を廃棄したり隠すことは危険な行為です。
証拠書類がもしなかったらどうするか
ただ、証拠書類の保管ってとても大変です。
法律で定められている期間は7年間が通常です。
たまになくなったり見つからなくてどうしようと思ってしまうこともあるかもしれません。
本当なら証拠書類は見えるところで保管しておくべきですが、もしなくなった場合でも何かしら資料となるものを残すようにしましょう。
もしかしたら内容によってはそれでOKが出ることもあります。(消費税のように証拠書類の保管が要件となっている場合は厳しいですが)
ここでは税務調査と年金事務所・労働基準監督署調査で場合を分けて書きたいと思います。
税務調査の場合
税務調査では、証拠書類と申告書の数字が違うというケースのほとんどは経費です。
税金はもうけである利益をもとに計算されます。
ここで、税金を減らすには「利益を減らす」→「売上を減らすか、経費を増やすか」を選ぶことになります。
どちらにしても意図的にやってしまえば「脱税行為」となってしまいます。
ここで売上を減らす場合は実はとても大変です。
相手があっての話ですし、もし隠していたとしても取引先への反面調査や通帳などから明確にわかってしまいます。
しかし、経費はどうでしょうか。
領収書が手元にあるので、操作はこちらの判断でできてしまうのです。
調査官としても経費関係は注目します。発見しやすいからです。
ここで、もし経費の証拠書類がない場合はどうするのか。
領収書が発行されている場合ですと、取引先に再度発行してもらうようにお願いしてみるというのも方法のひとつです。
また請求書が発行されている場合も取引先に再発行を依頼する。
領収書や請求書両方ともない場合は、手帳やメモでいつ・誰に・いくら払ったかを記録しておくというのも認められる可能性があります。
まったくOKかというと厳しいところもあります。
しかし、まったく残っていないからといって何もしないのではなく、素直に謝罪したうえでできる限り書類を集めるという姿勢を見せることが大事です。
年金事務所や労働基準監督署調査の場合
税務調査の場合と異なっているのは、賃金台帳などや出勤簿が全くないということはあまりないのかなと思うのです。
何かしら給与を支給するために資料を残してあるわけで、それが保管されていれば計算ができるのです。
なので、注目するのは「そもそも届出書の提出が必要なのに漏れていないか?」というところです。
つまり、法律上は届出書を出さないと認められないのに提出していなかったということです。
また、届出書の記載そのものが間違っている場合。
残業代を含めていないとか、取得した年月日が違うとか。
証拠書類があることが前提で話が進むことが多いのかなと。
実際に調査にあたったことはないので詳しく書くことができませんが、こういった印象を持っています。
まとめ
今回は証拠書類の保管が大事だということと、もしなかった場合の対応まで書いてみました。
申告書や届出書の作成の基礎である証拠書類をいかにきちんと保管しておくかが大事です。
保管の仕方は人それぞれだと思いますが、目につくところにわかりやすく整理しておくことかなと思います。
ノートに貼っておくとか、バインダーに綴じておくとかでもいいでしょうし、段ボールに1年分をまとめて保管するということもあります。
スペースの関係もありますから難しいかもしれませんが。
今後スキャナー保存が可能になっていくと思いますので、必ずしも紙で保管することが減っていくと思われますが、現状はまだ紙が主流です。
もしなくなったとかで大騒ぎしないように、少なくとも月に1回とか定期的に整理することをおすすめします。
ちなみに私は1か月ごとに封筒を作ってそこにまとめて入れています。
では。
[事務所お知らせ]
編集後記
30日に和歌山市内に住む高校の同級生でもある社会保険労務士から勉強会に誘われているのですが、このコロナ感染拡大のため参加を見送ろうかと思っています。
まだワクチン接種もできていない両親や祖父母のことを考えると、私が感染したらほかの家族にも影響が出てしまうのではないかなと。
和歌山県の感染者数の多くは和歌山市内に集中していますので、そこにわざわざ出かけるのはどうなのかなと思ってしまいますので。