非居住者にかかる源泉所得税

源泉所得税の事務に携わっている方が一番難しいなと思うのが、非居住者に対して支払ったときに発生する源泉所得税の取り扱いだと思います。

都心税務署で勤務していたときは、毎日の問い合わせがほぼ非居住者関連でした。

しかし、私自身そんなに詳しくなく得意なわけではありません。

いつも不安を抱えながら対応していましたし、結局再度確認したら間違っていたこともあります。

ですので、開業したら業務の柱にする予定はありません。

ただ、非居住者関連で何か参考になるものをと思ったので、今回は租税条約に関する届出書について書いてみたいと思います。

*私見で書いています。

そもそも非居住者の源泉所得税って

日本にある会社や個人事業主(源泉徴収義務者といいます)が、非居住者に対してある支払をした場合、源泉所得税を徴収し所轄税務署に納付する必要があります。

非居住者とは、①国内に住所がない、②1年以上の居所も有しない個人をいいます。

「外国人」=非居住者と勘違いされがちですが、国内に住所がない「日本人」でも非居住者となりますし、その逆で日本に住所や1年以上居所がある「外国人」は非居住者ではありません。

ここで支払については、非居住者が国内で業務をしたとか、国内で勤務したというような「国内源泉所得」についてのみ課税されます。

したがって、非居住者が、日本ではない国で業務をしたことに対して源泉徴収義務者である日本の会社などが支払ったとしても、源泉所得税は発生しません。

他にも、支店(恒久的施設)の有無とかいろいろありますが、ちょっとやめときます。

まず税務署で配布される「源泉徴収のあらまし」からチェックする

今回、細かいことを書くつもりはなくて、私が非居住者の問い合わせが来たときにどうやっていたかを書いてみます。

まず、「源泉徴収のあらまし」という冊子で内容を確認していました。

税務署へ行けば無料で配布されています。国税庁ホームページでも掲載されています。

冊子としては分厚いですし、あらましという名前からは考えられないくらい網羅的です。

特に、非居住者に関する章は充実しています。

非居住者に支払ったものが源泉徴収の対象になるかどうかを確認します。

そして、源泉徴収する必要があれば、税率を確認します。この税率は日本での税率です。

しかし、二重課税の防止という観点から日本と外国との間で「租税条約」が締結されている場合には、優先的にこの租税条約で定められた税率が適用されることになります。

「支払内容の確認→日本での税率確認→租税条約締結国か確認→その租税条約上の税率確認」

という流れです。

租税条約に関する届出書

この租税条約上の税率を適用する場合には、非居住者が源泉徴収義務者を経由して、その源泉徴収義務者の所轄税務署に「租税条約に関する届出書」を支払日までに提出する必要があります。

ただ、実務上は、非居住者が提出という形ではなく源泉徴収義務者が代理で提出することがほとんどです。

もし提出されない場合は、日本の税率が適用になります。

この「租税条約に関する届出書」は「国税庁ホームページ」に記載要領が掲載されています。

また、アメリカなど特定の国では「特典条項に関する付表(様式17)(以下、「付表」)」と「居住者証明書」や添付書類も併せて必要となります。

では、届出書を出そうかと思って記載を始めようとするといくつか問題点が出てきます。

記載の仕方、これが本当に問題なのです。問い合わせがここに集中します。

戸惑うのも分かる気がするのは私だけでしょうか。。

問題点① 記載要領はあるが具体例なし

届出書や付表には、記載要領がついています。

なんとなく理解できそうですが、具体例が一切ないのです。

これはどの届出書・申請書でもそうなのですが、具体例がないとなるとどう書いてもいいような雰囲気になってしまいます。

また、届出書には租税条約の条文番号を記載する箇所があります。

支払ごとに条文が租税条約にあるのですが、参考になる条文は国税庁ホームページにありません。

財務省のホームページとか条文集・ネットで検索する必要があります。

さらに、非居住者のサインが必要だったり、源泉徴収義務者の確認印を届出に押すということもきちんと書かれていませんので、いつも問い合わせが来るのです。

書いてあるところもありますけど、細かくて。。

定型例みたいなものを挙げて、ここは大事だとかコメントを付すなどしないといけないと思うのです。

しかも、付表に関しては非居住者に書いてもらうものになるので税務署に問い合わせが来ても困るというような対応しかできないのです。

正直この届出書と付表は不親切だなと思ってしまいます。

問題点② 不備があれば税務署から連絡が来る

定型例がないにもかかわらず、審査をして不備があれば連絡が来ます。

添付書類が足りないことが多いですが、多いのが非居住者のサインもれと、付表に添付する「居住者証明書」の添付もれです。

原則として、付表には「居住者証明書」の原本の添付が必要になりますが、これは国税庁のような相手国の公的機関が発行したものでなければなりません。

この証明書発行まで数か月かかることもあるのです。

事前に非居住者に伝えて取得しておかないといけないのです。

一応審査するときのマニュアルのようなものは税務署にあるのですが、内部資料なので公表されていません。

私もその時はその内部資料を見ながら審査したこともありますが、こういうチェックポイントも公表すべきだと思っていましたし、上司などに提案したこともありますけど実現していません。。

問題点③ 原則に対する例外が多い

先ほど、「居住者証明書」の原本の添付が原則だと書きました。原則というから例外がありまして、以下2つを満たせば、添付を省略することができます。

  • 1年以内に発行されたものであれば、非居住者は原本を源泉徴収義務者に提示する
  • 「届出書の記載内容につき居住者証明書の原本により確認した」という旨の記載を受けて、届出書を税務署に提出する

しかし、実務上は添付省略ではなく居住者証明書の原本のコピーはつけてもらっています。

このように届出書に添付する書類や付表に一部省略可能という例外が多数存在します。

これがさらに混乱を生じさせる原因になっています。

原則例外など作らない方がよかったのに、と思ってしまいます。

そうじゃなくても手間な書類作成になっていますので。

問題点④ 届出書を後日出しても還付されるという矛盾

当初届出書を提出せずに、日本の税率(高い)で源泉徴収していた場合に、

後日届出書とともに「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書(様式11)を提出すれば、租税条約の適用となり差額の還付が受けられます。

間違えたからとかではなく、出していなかった場合も還付できるのです。

例えば、税務調査で源泉徴収漏れが発見され当初届出書未提出で日本の高い税率を賦課された会社が、後日届出書とともに還付請求書を提出すれば差額が還付されてしまうのです。

え、ちょっと何それ、という感じしません??

書き方を確認したいときに参考にした書籍

それでも書いて提出はしなきゃならないわけです。

具体例があれば、書き方のいい本があれば。

そこで、私が当時参考にしていた書籍が2つあります。市販書籍ですので誰でも購入できます。

租税条約適用届出書の書き方パーフェクトガイド  牧野 好孝

この書籍は記載例が多く、いろいろな国の例も挙げています。

冒頭には、租税条約全般の説明もあり重宝していました。

 源泉所得税取扱いの手引 公益財団法人納税協会連合会

この書籍は毎年出版されていますが、本文は相当細かいですし読みずらいです(苦笑)。

それよりも最後の方にある「付録」がすごく重宝します!

租税条約の届出書の記載例ももちろん、源泉所得税関係の申請書や届出書、還付請求書、年末調整関係書類の記載例も掲載されています。

また、この本文の中にある各国との租税条約一覧も整理されていて便利ですよ。

疑問点解消の時に使っていた書籍と国税庁ホームページ

問答式 源泉所得税の実務

いわゆる質疑応答集で毎年出版されます。非居住者以外の源泉所得税全般が掲載されています。

この書籍と、先ほどの「取扱いの手引き」は大阪国税局の職員が書いています。

図解 源泉所得税 

毎年出版される、図解形式でまとめられている書籍です。シリーズ化されていて法人税や消費税などもあります。

「源泉徴収のあらまし」だけだと見ても分かりづらい時はこちらを参考にしてました。

こちらは、東京国税局の職員が書いています。

改正のあらまし(租税条約等関係)

こちらは国税庁ホームページに掲載されているものです。

租税条約があらたに締結されたり改正されるとここをチェックします。要件が改正になったりするので。

「ホーム→刊行物等→パンフレット・手引の源泉所得税関係」にあります。

直近の改正であれば、「利用者別情報・源泉徴収義務者の方へ→新着情報」の中にあります。

条文番号が分からないときは、このあらましからでも確認できると思います。

まとめ

今回は、説明という説明ができていません。すいません。

それだけ私は自信がなく仕事をしていました。

流れとしては、

 

①非居住者に該当する人に支払ったものが源泉徴収の対象になるか(国内源泉所得)

②源泉徴収の対象であれば日本の税率は何%か

③租税条約による税額の軽減があるか、あれば届出書を出す+付表と居住者証明書の原本も必要な場合あり

 

というような感じで判定します。

あとは、私が参考にしていた書籍やホームページなどを参照していただければある程度理解できるかなと。

まだ届出書の書き方については記載例の公開がないことから、ある程度調べて書いてみていったん提出し、税務署から連絡が来た時に対応すればいいかと思います。

また何か情報があればお伝えします。

では。

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