税務職員の身分証明書・質問検査権

仕事柄、税務調査対応の本を読んでいます。

私が調査官だったころに経験したことや見聞きしたことに対して、法律や裁判例でどうだったのかを改めて知るきっかけになったりしています。

今回はその中で税務職員の身分証明書等について記憶がよみがえってきたので書いてみたいと思います。

【事務所お知らせ】  

身分証明書の携帯・提示

税務職員には、税務調査を行う際に法人や個人事業主などに対して質問し帳簿や請求書・領収書などを検査する権利(質問検査権)があります。

この質問検査を行う場合には、その身分を示す証明書を携帯し法人や個人事業主側(または関与税理士側)から「見せて」と言われたら提示しなければなりません。

調査官は、税務調査で法人や個人事業主宅(事務所など)にお伺いする際には身分証明書と質問検査章を必ず携帯しこれを法人の代表者や個人事業主に提示します。

身分証明書と質問検査章を合わせて以下、「身分証明書等」とします。

質問検査章には「○○税の調査」と書かれてありますので、調査官は「○○税の調査でお伺いしました」とはっきりと伝える必要があります。

そのうえで、代表者や個人事業主に調査への協力と承諾を得たうえで調査をスタートさせることになります。

身分証明書等を提示して来なかったら

もし税務職員が身分証明書等を提示して来なかったらどうすればいいのでしょうか?

法律上で定められているものですから、もし提示しないとなると違反行為となり調査の効力自体無効になると解されています。

例えば、個人事業主宅に所得税の税務調査に訪れた調査官がいたとします。

個人事業主が調査官に対し身分証明書等の提示をお願いしたところ提示しませんでした。

この場合、提示しないという理由で個人事業主が質問検査を拒否しても本来あるはずの質問検査拒否の罰則は適用されません。

実際、最高裁での裁判例がありますので以下でご紹介します。

相手方(法人や個人事業主)が検査章の提示を求めたのに対し、収税官吏(税務調査官)がこれを携行していないか、または携行していても提示しなかった場合に相手方はその検査を拒む正当の理由があるものを認むべきである
引用:昭和27年3月28日最高裁(カッコ書き加筆)

実際あった話

在職中に会った話をひとつ。

ある後輩調査官が法人税の調査に出かけました。

税務調査は朝10時に調査先法人に向かうのが一般的ですが、その調査官は11時前に慌てて帰ってきました。

上司はビックリして「どうした?」と聞くと、身分証明書等を忘れて出かけたと言ったのです。

調査先の関与税理士から身分証明書等の提示を求められた際に忘れたことに気づいたとのこと。

税理士は呆れて調査を開始できない旨告げられてしまい慌てて帰ってきたみたいです。

スタートが遅れたこともあって、1日目の調査はほぼできずじまいだったという話を聞きました。

もし身分証明書等について相手側が提示を求めなかった場合にはそのまま調査がスタートしていたかもしれませんね。

実際この話を聞いたときにやっぱり身分証明書等の携帯って大事なんだなと。

強力な権限が調査官にはあるため、身分証明書等を忘れるって本来あってはならないことなのかもしれません。

見せてくださいと言われたら提示するとはなっていますけど、通常は調査官自ら進んで身分証明書等は提示するはずなんです。

そうじゃなければ調査にご協力いただけない・拒否されてしまうかもしれません。

当時は調査先に着いたらまず身分証明書等は見せるように、と上司から指導されていたのを思い出しました。

まとめ

税務調査の本を読むと実際あった出来事を思い出します。

代表者や個人事業主の皆様は、必ず調査官に身分証明書等は携帯しているのか確認をお願いします。

まず不審者ではないとは思いますけど、法律で決められていることなのでもし調査官からアクションがなくても確認したほうがいいです。

私自身、身分証明書等を持ち歩くのはとても怖かったです。

それだけ責任を持っているという調査官としての表れなのかもしれませんね。

では。

 

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