「副業の社労士業務、事業所得に該当せず」の判決から考えたいこと

令和7年7月10日、東京高裁で副業の社労士業務は事業所得に該当しないという判決が出ました。

ここから考えたことを今日は私見を交えて書いてみたいと思います。

判決の概要

まずはこの判決の内容を簡単にご紹介します。

  • 原告・控訴人は3社の勤務先から給与を得るとともに、社会保険労務士業務を副業として行っていた
  • 高裁は、給与所得の大半を費やして補わなければ継続し得ないほどの損失が少なくとも5年連続で計上されているのであって、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務であるとはいい難い

  • 事業所得に該当するとは認め難い(雑所得に該当する)

この判決は、元々は国税不服審判所に不服申立てをしたものの棄却された事例が訴訟に発展したものです。

事業所得か雑所得か

会社員のほか副業として社会保険労務士業を行う場合は開業登録をしなければなりません。

しかしながら、今回の判決では開業登録をして得た収入が必ずしも事業所得とはならない、ということを表しています。

社会保険労務士として登録する際の「勤務等」の区分は、社内で勤務社労士として関連業務に従事するためのものなので社外で行う副業のための登録はできません。

事業所得であるかどうかは、過去の裁判例などを見ていきますと、

  • 営利性・有償性がある
  • 継続性・反復性がある
  • 自己の危険と計算による企画遂行性がある
  • 精神的・肉体的労力をその経済活動に使った
  • 人的・物的設備がある
  • 資金の調達方法が明らか
  • その者の職業や経歴、社会的地位、生活状況を踏まえて判断
  • 相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性があるかどうかを検討

これらを主な判断基準としています。

事業所得ではなく雑所得として判断された場合でも、収入から必要経費を差し引いて所得を計算することは変わりません。

しかし、事業所得と雑所得の大きな違いは、

赤字が出たときにほかの所得と相殺ができる

ところです。

収入から必要経費を差し引いて所得がマイナスになれば赤字です。

この赤字の所得をほかの所得と相殺ができるのは事業所得で、相殺できないのは雑所得です。

損益通算を使った節税スキーム

赤字が出たときにほかの所得と相殺ができることを損益通算と言います。

事業所得ですと損益通算ができますので、損失の出ている副業の社会保険労務士業から得た所得を事業所得として申告をして給与所得と損益通算します。

その結果、所得が減るために所得税が減り節税になる、と考えたのが損益通算を使った節税スキームです。

しかし、問題点は副業である社会保険労務士業の内容です。

「給与所得の大半を費やして補わなければ継続し得ないほどの損失が少なくとも5年連続で計上されている」とありました。

そもそも収入よりも経費のほうが大きいから損失になるんですけど、その損失が多額で連続して計上される社会保険労務士業務ってどんな仕事なのでしょうか?

つまり、損益通算を利用した節税が目的なのではないかと税務署側は疑ってしまいます。

事業継続が危ぶまれるほどの損失が少なくとも連続していますので、損失を解消する取り組みをしているようには思えないです。

安定した収益を得られるように活動をしている可能性がないと判断されてしまったのでしょう。

類似事例を紹介

今回の判決と同じような事例があります。

  • 画家として洋画の政策・販売を行っていた医師が、画業にかかる赤字を医師の給与所得から控除して確定申告をした
  • 画業から生じる所得は事業所得ではなく雑所得になると判断された

この医師についても、画家としての収入を大幅に上回る経費が計上されていたこと損失の改善に向けた取り組みがなされていないことから事業性が認められませんでした。

まとめ

今回の副業の社労士業務が事業所得とならなかったポイントをまとめると以下のようになります。

①相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性があることが重要な判断要素となっている
→所得がプラスになっている
②事業から損失が発生している場合、損失を解消する取り組みをしていることを証明できるかどうか
→何年も連続して多額の損失を計上していたらダメ
③損益通算を使った節税スキームは必ずチェックされることを知っておく
→行き過ぎたスキームは要注意

今回の判決を受けて経理や税金面について不安をお持ちの社会保険労務士の方もいるかもしれませんね。

税理士をつけていない社会保険労務士もいらっしゃいます。

もし不安をお持ちなら税理士に相談をしてみるといいでしょう。

「自分は社会保険労務士という専門家だから聞けない」という変なプライドは捨てましょう。

専門外なのだから知らないのも当然です。

相談すればいいんです。

では。

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