宗教法人の税務調査

先日、地元和歌山県にある宗教法人の税務調査に関する報道がありました。

2宗教法人に計1.5億円の所得隠し指摘 国税「お布施を私的流用」https://news.yahoo.co.jp/articles/5d019f7bc27dba4cd4d926b3329d75f89854607a

そもそも宗教法人に税務調査が来るのかというイメージがつかめないかもしれませんね。

どんなことを調べられるのかも気になるところです。

「収益事業」かどうか

一般的な事業会社では、儲け(所得)が出るとすべて課税されます。

一方で、宗教法人は優遇されているところがあり、収益事業から生じた儲けにのみ課税されます。

一般的に「宗教活動の一環」と認められるものは、収益事業にあたらないとされています。

例えば、以下のようなものです。

  • お布施や戒名料などの葬儀や法要等に伴う収入
  • お守りやおみくじ等の収入
  • 永代使用料を請け負って行う墳墓地の貸付けの収入
  • 結婚挙式の収入
  • 拝観料収入

一方で、以下のようなものは収益事業にあたるとされています。

  • 絵ハガキや写真帳の販売収入
  • 駐車場の貸付け収入
  • 露天商への境内使用料収入
  • 結婚式や法事等での飲食物の提供や衣装の貸付け収入
  • 墓石事業者からの手数料収入

宗教法人では、一般的な宗教活動だけでなく、各種教室を運営したり宿泊施設を設けたり幼稚園経営・書籍出版などいろいろな事業を行っているケースが多いです。

実施しているのが収益事業にあたるのかどうかがひとつポイントになるところです。

【事務所お知らせ】  

収益事業を行っていない宗教法人は源泉所得税調査

収益事業も行っている宗教法人の税務調査は、基本的に法人課税部門において法人税・消費税・源泉所得税の同時調査で行われていることが多いです。

一方、収益事業を行っていない場合は一見税金が発生しないため税務調査は来ないと思われがちです。

しかし、収益事業を行っていない宗教法人であったとしても、その宗教法人の代表役員や職員等に対して給与の支払がある場合は源泉所得税の調査の対象とされます。

私がいた源泉所得税担当でも毎年必ず宗教法人の調査は行われていました。

では何がポイントになるかです。ここでは大きく2つ挙げてみたいと思います。

住職等が個人で負担すべきものがないか

住職等が個人で負担すべき飲食代・生活費・子どもの学費・慶弔費などを宗教法人が負担していた場合は、住職等に対して給与の支給があったものとして扱います。

宗教法人から提出された損益計算書などの資料や事業規模などに基づいて住職等の給与支給額について検討を行って不審な点があれば調査されます。

宗教法人への収入を自分たちで使っていないか

宗教活動に伴うお布施収入や宗教法人からの資産から生じる不動産収入などはすべて宗教法人の収入となります。

したがって、これら収入で受け取ったお金に関しては住職等が自由に使うことができないわけです。

今回報道された宗教法人の例はまさにこのお布施収入を私的に利用していた(貯金していた)と指摘されました。

各法人の代表役員である住職2人はそれぞれ、生活費は寺からの給与などで賄っているとしていたが、国税局が調査すると、住職を兼務する寺のお布施など各7千万円超を私的な貯金などにあてていた。貯金など私的流用分を法人の会計帳簿に記載しなかったとして、重加算税対象の仮装・隠蔽(いんぺい)行為にあたると判断した
引用:Yahoo!ニュースより

宗教法人の収支は損益計算書に載せる必要があるわけです。

このような指摘を受けないためには、宗教法人の収支と住職等の収支を明確に区分しておくことが望ましいとされています。

実際にあった事例

ここからは私が源泉所得税担当時に先輩から聞いた事例をご紹介します。

先輩は当時源泉所得税調査をひとりで始めたばかりだったそうです。

宗教法人はお寺でした。源泉所得税調査なので上記に挙げた2つの問題点を想定して調査に臨みました。

お寺に着いて住職から概況をお聞きしている途中で、目の前に駐車場らしき広い土地があるのが分かりました。

「あれは何ですか?」と尋ねたら「駐車場で貸し付けているんですよ。」と。

「うん??」となるわけですよ。

駐車場を貸し付けているということは駐車場収入があるはず、と…。

その場で上司である統括官に連絡をして法人税担当に調査に同行してもらうことになりました。

収益事業ではないと思って源泉所得税担当のみの調査にしていたのに、収益事業があるとなると法人税の申告義務が生じます。つまり無申告状態なわけです。

結果的に法人税の追徴税額もあってとんでもない額になった、とおっしゃっていました。

先輩の機転の良さもあったと思いますが、お寺側もずさんだなと思った次第です。

駐車場なんて見たら分かりますからね。

まとめ

今回は報道された宗教法人の税務調査について書いてみました。

源泉所得税担当が単独で調査を行っているイメージがあります。

一般的な事業会社とは少し異なるところがありますが、基本的に言えることはきちんと書類管理をするということと適正な金額を帳簿に載せるということにつきます。

では。

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