源泉所得税を納めすぎた場合

先日、源泉所得税の納付書について書いてみたところ、たくさんの方に見ていただきました。

ありがとうございます。

今回は、源泉所得税をもし納めすぎてしまった場合にどうすればいいのかについて書きたいと思います。

通常は、このような判断をされるかと思います。

  • 納めすぎた分を還付してもらう
  • 納めすぎた分を翌月に充当する

税務署では、会社や個人事業主が自ら計算し納付したという事実しか分からないので納めすぎた場合にすぐ返してくれるのかというとそういうわけにはいきません。

納めすぎた分を翌月に充当する場合、原則届出をしないとできないことになっています。(届出せずに充当してしまっている方もいますけど…。)

今回は、納めすぎた時に税務署に出す書類などについて説明してみたいと思います。

誤納額還付請求書

国税庁ホームページで、源泉所得税の内容を検索すると、納めすぎたときの対応の仕方が掲載されています。

この中で、わかりやすく書かれているタックスアンサーから紹介してみます。

タックスアンサー No.2506 源泉所得税及び復興特別所得税を納め過ぎたとき

源泉徴収義務者が次の理由で源泉所得税及び復興特別所得税を納め過ぎたときには、

源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額還付請求書」(以下「還付請求書」といいます。)を作成し、

誤りが生じた事実を記載した帳簿書類の写しを添付して、源泉所得税の納税地の所轄税務署長に提出することで過誤納金の還付を請求することができます。

(1) 源泉徴収義務者における源泉所得税及び復興特別所得税額の計算誤り等による過誤納金
(2) 支払額が誤払等により過大であったため返還を受けたことによる過誤納金
(3) 支払額が条件付のものであったため返還を受けたことによる過誤納金

 

この太字の理由(1)から(3)は後々ポイントになります。

提出期限は特に定められていませんが、納付した日から5年間の間に提出しないと、時効により請求権が消滅します。

提出方法としては、還付請求書を作成し、添付書類とともに提出先に持参又は送付します。

[添付書類・部数]
1 還付を受けようとする税額を納付した際の徴収高計算書(納付書)の写し 1部
2 誤納額が生じた事実を記載した帳簿書類の写し(例-総勘定元帳の「預り金」勘定部分など) 1部
引用:国税庁ホームページ「誤納額還付請求書」

還付請求書の用紙の各欄について説明すると、

  • 「住所又は所在地」:請求者の住所または本店(主たる事務所)の所在地
  • 「氏名又は名称」:氏名や名称(○○事務所や株式会社○○など)
  • 「個人番号又は法人番号」:記載必要
  • 「代表者氏名」:記載必要
  • 「還付を受けようとする金額」:下にある「誤納額の計算内容」において計算した差引誤納額を記載します。
  • 「誤納を生じた理由」:誤納を生じた理由を簡記します。

ここまでは、誤納額還付請求書の記載要領にも書かれてあります。

【事務所お知らせ】  

確認したいポイント

冒頭でも書きましたが、税務署側は会社や個人事業主が源泉所得税を納めすぎているかどうか分かりません。

ですので、「納めすぎた事実が分かる書類」と「正当税額が分かる書類」が必要になります。

先ほど添付書類として、納付書の写しと、総勘定元帳(預り金)の写し挙げられていましたが、あくまで例にすぎません。

これだけで足りる場合と、追加で資料を準備しなければならない場合とがあります。

還付請求は必ず審査をすることになっていて、担当職員と審理担当と統括官3人がチェックすることが多いです。

担当する自分がOKを出しても上司の方でNGということも当然あります。

また、還付請求の理由により添付書類(依頼書類)が変わってくることもあります。

では、以下に具体例を作ってみましたので見ていきましょう。

こんなこと起こるわけないやん!という具体例で申し訳ありません。。

具体例① 納付書記載誤り

●令和3年8月25日 税理士報酬1人100,000円(源泉税10,210円)支払い
●令和3年9月10日 8月分の税理士報酬分を納付する際、源泉税を11,000円と納付書に記入してしまい11,000円を和歌山税務署へ納付してしまった。

この例は、源泉税自体は正しく徴収されています。(100,000円×10.21%)

しかし、納付書の記載を誤ったために多く納付してしまいました。

誤納額還付請求書の書き方

●「還付を受けようとする金額」:③より790円

●「誤納を生じた理由」:納付書記載誤り、など(理由を簡記でOK)

●「誤納額の計算方法」:還付請求書の中ほどにある表に記入します。

以下、還付請求書の中ほどにある表の記載例です。

所得の種類 年月別 区分 人員(人) 支給額(円) 税額(円) 納付年月日納付先税務署
税理士報酬 令和3年8月 徴収高計算書に記載(A) 100,000 11,000 R3.9.10
正当計算(B) 1 100,000 10,210 和歌山税務署
差引A-B 0 0 790

この表については、書き方が決まっているわけではありません。

記入ポイント

●「所得の種類」:給与や退職、報酬などの所得の種類を記載します。ここでは税理士報酬。

●「年月別」:今回税理士報酬を支払ったのが令和3年8月25日でしたので「8月」と記入すればOKです。(納期特例ですと令和3年7月~12月と記載)

●「徴収高計算書に記載(A)」:この列には、誤って納付した納付書に記載したものを記入します。

●「正当計算(B)」:この列には、正しく計算した結果(本来この納付書で納付したかった)を記入します。

●「A-B」:AからBを差引きますので、基本的にマイナスは出ません。

ちなみに、今回は1カ月分の還付請求でした。

もし、複数月還付請求をしたい場合は以下の2つの方法があります。

①1カ月ずつ還付請求書を作成する
②還付請求書の「誤納額の計算方法」に「別紙のとおり」と記入し、エクセルなどで集計し差引合計額を還付請求書「還付を受けようとする金額」に記入する

基本的にはです。

また、1カ月のうち税理士報酬のほか給与も多く納めていた場合には、同じ納付書内であれば還付請求書1枚にまとめて記載してOKです。

ただし、原稿料報酬と給与ならば納付書が別(報酬と給与)ですので還付請求書を2枚作成する必要が出てきます。

添付書類

●「帳簿書類の写し」にチェックを入れます。

●枠内に、具体的な添付書類を記入します。

例① 納付書の写し(誤ったときの納付書。エラーが出てしまうと納付データが反映されず未納付状態となっていますので、電子の場合でも添付したほうがいいです)

例② 預り金(総勘定元帳より。源泉税を「いつ預りいつ納付したか」を経理処理しているか確かめるために必要です)
ただし、元帳まで作れていないなら、仕訳伝票などでも可能です。要は、「いつ預かっていつ納付したか」を確認できればいいので。

預り金は、通常納付したら残高がマイナスになっているはずです。納めたほうの金額が多くなっているためです。

例③ 税理士からの請求書(税理士報酬の場合。あればなおよし)

税理士報酬が毎月発生し一定額であれば、預り金勘定があればわかるかもしれませんので、請求書は不要になる可能性があります。

多く納めているという事実が確認できるまで還付されません。

具体例② 金額集計誤りや年末調整もれ

8月分の給与の源泉税を集計し9月10日に納付したものの、後日集計誤りがあったり死亡時や出国時の年末調整を忘れていて、再計算したら多く納付してしまっていたという場合

この場合は、給与ですので請求書関係は不要ですが、別の添付書類が必要になります。

添付書類

●「帳簿書類の写し」にチェックを入れます。

●枠内に、具体的な添付書類を記載します。

例① 納付書の写し(誤ったときの納付書。エラーが出てしまうと納付データが反映されず未納付状態となっていますので、電子の場合でも添付したほうがいいです)

例② 預り金(総勘定元帳より。源泉税を「いつ預りいつ納付したか」を経理処理しているか確かめるために必要です)
ただし、元帳まで作れていないなら、仕訳伝票などでも可能です。要は、「いつ預かっていつ納付したか」を確認できればいいので。

預り金は、通常納付したら残高がマイナスになっているはずです。納めたほうの金額が多くなっているためです。

例③ 賃金台帳の写し
〇金額集計誤りであれば賃金台帳の写しが必要
〇年末調整もれであれば訂正前と訂正後それぞれの賃金台帳の写し
(賃金台帳は源泉徴収簿や給与支給が分かるものであればOKです)

例④ 訂正理由が分かる書類
〇年末調整もれだと、死亡日や出国日が分かるもの

これ以外にも、求められる書類があるかもしれません。

具体例①と②は、タックスアンサーに書かれてある理由(1)に該当するものです。

他にも、二重に納付してしまったというのもあると思います。

これは理由(1)にはあたらなそうですが、計算誤りであるため還付請求できるという認識でいいと思います。

具体例③ そもそも納付の必要がなかった(誤払)

令和3年8月25日 税理士報酬1人100,000円(源泉税10,210円)支払い
令和3年9月10日 8月分の税理士報酬分納付
令和3年9月24日 税理士報酬1人100,000円(源泉税10,210円)支払い
令和3年10月11日 9月分の税理士報酬納付
しかし、本来9月分は税理士報酬を支払う必要はなかった
そこで、税理士より令和3年10月15日返金を受けた。

この具体例は、ほかの具体例とは若干違い「本来納付不要だった(誤払)」という場合です。

この場合、還付請求書を提出するときは、

先ほどタックスアンサーで取り上げた理由(2)「支払額が誤払等により過大であったため返還を受けたことによる過誤納金」が発生したというものが必要になります。

つまり、

支払う必要がなかった(誤払)部分の返還を受けてから還付請求ができる、ということです。

誤納額還付請求書の書き方

●「還付を受けようとする金額」:③より10,210円

●「誤納を生じた理由」:納付する必要がないものを納付した、など(理由を簡記でOK)

●「誤納額の計算方法」:還付請求書の中ほどにあります。

所得の種類 年月別 区分 人員(人) 支給金額(円) 税額(円) 納付年月日納付先税務署
税理士報酬 令和3年9月 徴収高計算書に記載(A) 100,000 10,210 R3.10.11
正当計算(B) 和歌山税務署
差引A-B 100,000 10,210
記入ポイント

●「所得の種類」:給与や退職、報酬などの所得の種類を記載します。ここでは税理士報酬。●「年月別」:今回支払不要であった税理士報酬を支払ったのが令和3年9月25日でしたので「9月」と記入すればOKです。●「徴収高計算書に記載」:この列には、誤って納付した納付書に記載したものを記入します。

●「正当計算」:この列には、正しく計算した結果を記載します。今回は、支払不要でしたので0円となります。

●「A-B」:AからBを差引しますので、基本的にマイナスは出ません。

次に、添付書類の説明をしますが、今回はこの添付種類が重要となります。

「相手から返金を受けている」という事実の証明する書類が必要になります。

添付書類

●「帳簿書類の写し」にチェックを入れます。

●枠内に、具体的な添付書類を記載します。

例① 納付書の写し(誤ったときの納付書。エラーが出てしまうと納付データが反映されず未納付状態となっていますので、電子の場合でも添付したほうがいいです)

例② 預り金(総勘定元帳より。源泉税を「いつ預りいつ納付したか」を経理処理しているか確かめるために必要です)
ただし、元帳まで作れていないなら、仕訳伝票などでも可能です。要は、「いつ預かっていつ納付したか」を確認できればいいので。

預り金は、通常納付したら残高がマイナスになっているはずです。納めたほうの金額が多くなっているためです。

例③ 返金を受けた事実がわかる書類

今回の具体例では、令和3年10月15日に税理士から返金を受けています。
この時に税理士から返金を受け取った領収書や通帳の写し、仕訳伝票や元帳の写しがあるとOKです。

具体例④ 支払額が条件付きであった場合

タックスアンサーで掲載されている理由(3)の場合でも、返還された事実が分かってから還付請求ができます。

ここで、支払額が条件付きであった場合というのはどういうものか。

例えば、出版契約が解除になった場合で、原稿が出来上がったら原稿料を支払うという契約に基づき源泉所得税を徴収していたが、契約解除により原稿料の返還が行われた場合 など。

この場合は、契約書や契約解除通知なども併せて添付書類として必要になるかなと思われます。

誤納額充当届出書

誤納額充当届出とは、源泉徴収義務者が給与等に対する源泉所得税及び復興特別所得税を納付する際に誤って正当税額を超えて納付した場合に、
その正当税額との差額(過誤納金といいます。)を、
その後納付する給与等に係る納付すべき所得税及び復興特別所得税の額に充当するために行う手続です。

正式な書類名は、「源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額充当届出書」といいます。

[添付書類・部数]
1 還付を受けようとする税額を納付した際の徴収高計算書(納付書)の写し 1部
2 誤納額が生じた事実を記載した帳簿書類の写し(例-総勘定元帳の「預り金」勘定部分など) 1部

先ほどの「誤納額還付請求書」と添付書類は変わりません。また、届出書自体もぱっと見何も変わっていないような雰囲気です。

しかし、この充当届には注意点がいくつかあります。

充当期限ができてしまうので早めに提出しなければならないこともある

届出書の上段を見ると、こう書いてあります。

「下記の金額を令和  年  月支払分の給与等から徴収して納付すべき税額に充当したいので届け出ます。」

この届出を出すには、充当する月を決める必要があるのです。

例えば、令和3年9月支払分の給与等から徴収して納付すべき税額に充当したいとなると、令和3年10月11日が納付期限のものに充当する、ということです。

つまり、令和3年10月11日までに提出できていない充当届出書は効力がなくなり充当できなくなります。

充当期限ができてしまうので、早めに提出しなければならなくなってしまうわけです。

期限が気になったり、無理そうだなという場合には「誤納額還付請求書」の方が使いやすいですね。

給与等しか充当できない

もう一つ大きな点として、給与等しか充当できません。

つまり、報酬や退職金などは充当届は出せません。

届出書の「給与等の区分」には、以下の4つしかチェック欄がありません。

●俸給給与等

●賞与(役員賞与を除く。)

●日雇労働者の賃金

●役員賞与

いわゆる「給与所得」と呼ばれるものしか充当はできません。

では、報酬や退職金の場合はどうするのかというと「誤納額還付請求書」を提出します。

ちなみに、充当届はOKが出ても税務署から連絡はきません。

充当月の納付期限までに特に連絡がなければ充当してください。

充当期間が長いとダメ

充当する期限はできてしまうものの、届出書を提出する期限は特に定められていません。

ただし、充当期間が3か月を超えるようなものになると、充当届ではなく還付請求書を提出するように指導されますので注意です。

(補足)年末調整過納額の還付請求との違い

年末調整の過納付についてはまた説明しようかと思っていますが、先ほどまでの「誤納額還付請求」と何が違うのかについて簡単に。

年末調整過納額の還付請求は、
給与等の支払者が、年末調整により生じた過納額を給与等の受給者に還付する場合で、
給与等の支払者に次に掲げる事由が生じたときに、
その過納額について、給与等の受給者が給与等の支払者の所轄税務署から還付を受けるために行う手続のことをいいます。
(1) 解散、休業等の事由により給与等の支払者でなくなったこと、又は徴収すべき税額がなくなったことにより、その過納額の全部又は一部を還付することができなくなった場合。
(2) 過納額を還付すべきこととなった日の属する月の翌月1日から起算して2月を経過してもなお還付すべき過納額が残っている場合。

「誤納額還付請求」との違いは、そもそもの年末調整の計算が正しいか誤っているかです。

●年末調整過納額還付:年末調整の計算は正しいが、その過納額が上記(1)(2)の理由で還付を受けたい場合
●誤納額還付請求:年末調整の計算が誤っていて、結果として過納額が生じたので還付を受けたい場合

年末調整の計算次第で、提出すべき還付請求の書類が変わってきますので、ご注意を。

まとめ

税務職員の時に、還付請求の審査の経験も長かったのでついつい長文になってしまいました。

この審査は法人課税部門の源泉所得税担当がするのですが、実際還付するのは管理運営部門が担当します。

実際提出されてから還付が終わるまで2~3か月程度はかかると思っておいたほうがいいです。

還付がされる場合には税務署から通知が来ます。

書類の追加依頼や電話でのやりとりが多くなるので、多くの方はイライラされます。

その気持ちよく分かるのですが、状況を把握してから還付をしないといけませんので。

今回は、私の個人的な考えと自分はこうしてたな、ということを書きました。

参考になればと思います。

では。

編集後記

令和3年6月30日 内容を更新しました。

  • 図解を挿入
  • 日付を直近のものに(土日休みの場合は休み明けの日を納付期限に)
  • 文章の見直し
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